精神科の看護師が受ける暴力への対策とは?

精神科の看護師が受ける暴力への対策とは?

精神科の看護師が受ける暴力への対策は、暴力が起きる前のリスク評価、チームでの予防、発生時の安全確保、発生後の報告と支援を一つにつなげて行うことです。患者さんを一方的に責めるのではなく、症状や環境の変化を把握しながら、看護師だけで抱え込まない体制を整えることが重要です。

暴力には、殴る・蹴る・物を投げるといった身体的暴力だけでなく、脅迫、威圧、暴言、性的な言動、器物損壊なども含まれます。対策は「我慢して受け流す」ことではなく、患者さんと職員の双方の安全を守るために行います。

精神科で暴力のリスクを早めに評価する

暴力を完全に予測することはできませんが、直前の変化や過去の情報からリスクを評価することはできます。入院時だけでなく、状態が変化したときや外出・面会の前後にも見直します。

  • 過去に暴力、脅迫、器物損壊などがあったか
  • 興奮、易怒性、不眠、被害妄想、幻聴などの変化があるか
  • 飲酒や薬物使用、治療薬の中断などが疑われるか
  • 痛み、発熱、便秘、低血糖など身体的な不調がないか
  • 退院、外出、面会、病室変更など、強いストレスになる出来事がないか
  • 特定の相手や場所、話題が刺激になっていないか
  • 職員との意思疎通が難しく、要求や不満が伝わっていない状態ではないか

評価した内容は、担当者だけの情報にせず、申し送りや記録を通じてチームで共有します。ただし、過去の暴力歴だけで患者さんを危険人物と決めつけず、現在の状態や誘因と合わせて判断することが大切です。

暴力を防ぐために看護師が行う具体的な対策

予防の基本は、刺激を減らし、患者さんの不安や不満が大きくなる前に対応することです。個人の話し方だけでなく、病棟全体の環境と対応をそろえる必要があります。

患者さんの変化を観察して早めに声をかける

歩き回る、声が大きくなる、表情が険しくなる、拳を握る、会話がかみ合わなくなるなどの変化は、興奮が高まっているサインの一つです。普段との違いを見つけたら、刺激の少ない場所で短く声をかけ、困っていることや希望を確認します。

「なぜそんなことをするのですか」と責めるよりも、「何か不安なことがありますか」「今は人の少ない場所で話しますか」のように、状態と希望を確認する表現が適しています。妄想や幻聴の内容を事実だと断定する必要はありませんが、患者さんが感じている恐怖や苦痛まで否定しないようにします。

説明と対応をできるだけ統一する

職員によって説明やルールが違うと、患者さんの不信感や混乱につながることがあります。面会、外出、薬、隔離や行動制限などに関する説明は、病棟の方針に沿って統一します。

すぐに要求を受け入れられない場合も、「できません」だけで終わらせず、理由と次に確認できる時点、代わりにできることを具体的に伝えます。約束した内容を守れない場合は、変更になった理由を早めに説明します。

危険になりやすい場面と環境を見直す

患者さんと一対一で話すときは、周囲に助けを呼べる方法があるか、退避できる経路が確保されているかを確認します。必要に応じて、他の職員が近くにいる場所を選び、出入口をふさぐ位置に立たないようにします。

病棟では、壊れた設備、投げやすい物、見通しの悪い場所、死角になりやすい場所などを点検します。ナースコールや緊急連絡の方法がすぐ使える状態か、職員間で定期的に確認することも必要です。

一人で対応しない

暴力の可能性がある患者さんへの対応を、担当看護師だけの責任にしないことが重要です。危険度が高いと感じた段階で、早めにリーダーや医師、他の職員へ応援を依頼します。

応援を呼ぶ基準や連絡方法は、勤務帯や病棟の状況に左右されないよう、あらかじめ決めておきます。「これくらいなら自分で対応できる」と無理をせず、違和感の段階で共有することが重症化の予防につながります。

興奮や暴力が起きたときの対応

発生時は、患者さんを説得し続けることよりも、まず人身被害を防ぐことを優先します。状況に応じて対応は変わりますが、一般的には次の順番で行います。

  1. 距離を取り、退避経路を確保する。相手に近づきすぎず、出入口や安全な場所への移動を妨げない位置に立ちます。
  2. 応援を呼ぶ。緊急連絡やナースコールなど、施設で決められた方法を使い、発生場所と状況を簡潔に伝えます。
  3. 刺激を減らす。大声で複数人が同時に話したり、周囲の患者さんが集まったりしないようにします。対応者は必要な人数に絞ります。
  4. 短く落ち着いて伝える。「今は安全のために距離を取ります」「叩かれると対応できません」のように、行動の限界と安全上の理由を明確にします。
  5. 必要な場合は院内の緊急手順に移行する。医師や責任者の判断のもと、施設の規定に従って治療や保護的な対応を行います。
  6. 負傷者と周囲の患者さんを確認する。安全が確保されたら、けがの有無や身体状態を確認し、必要な診察・救急対応につなげます。

押さえつけ、隔離、身体拘束などの行動制限は、看護師の判断だけで自由に行うものではありません。適用の要件や手順、記録、解除の判断は、医療機関の規程と関係法令・指針に従う必要があります。危険が迫っている場合でも、職員が単独で無理に制止しようとせず、訓練を受けた複数の職員と院内手順に基づいて対応します。

暴言や脅迫にも早めの対策が必要

身体的な攻撃がない場合でも、暴言や脅迫が繰り返されると、看護師の心理的負担が大きくなります。暴言をすべて「病気の症状だから仕方がない」と扱うのではなく、症状によるものか、説明不足や環境への不満があるのか、意図的な脅迫に近いのかをチームで検討します。

対応するときは、患者さんの感情を認めながら、許容できない行為について線引きを示します。例えば「不満を話すことはできますが、脅す言い方では安全に対応できません。落ち着いて話せる職員を呼びます」と伝えます。

具体的な危害の予告、待ち伏せ、つきまとい、性的な嫌がらせなどがある場合は、看護師個人で解決しようとせず、上司、医師、病院の安全管理部門などへ報告します。緊急性がある場合の連絡先や対応は、勤務先の規程に従います。

暴力が起きた後に行うこと

発生後は、患者さんの状態だけでなく、被害を受けた看護師の身体面と心理面も確認します。外傷が軽く見えても、痛みや気分不良が続く場合は医療機関で確認を受けます。

事実を記録して報告する

記録には、評価や推測ではなく、できるだけ具体的な事実を残します。次の内容が参考になります。

  • 発生した日時、場所、関係した人
  • 直前の患者さんの言動や周囲の状況
  • 誰が、どのような行為を受けたか
  • 職員が行った対応と、その後の患者さんの状態
  • けが、物品の破損、他の患者さんへの影響
  • 医師への報告、受診、家族への連絡などの実施内容

「問題行動があった」とだけ書くのではなく、「大声で職員に近づき、右手で腕を1回つかんだ」のように、確認できた行動を記載します。インシデント報告や労働災害に関する手続きが必要かどうかは、勤務先の基準を確認します。

振り返りで再発防止策を決める

振り返りでは、患者さんを責めることや、担当者の対応だけを問題にすることが目的ではありません。何がきっかけだったのか、危険サインを共有できていたか、応援を呼ぶタイミングは適切だったか、環境に改善点がなかったかを確認します。

その結果を、申し送り内容、観察項目、職員配置、環境整備、患者さんへの説明方法などの具体的な変更につなげます。対策を決めた後は、実際に機能しているかを再評価します。

精神科看護師が身につけたい研修と技術

個人の経験だけで対応力を高めるには限界があります。勤務先が実施する暴力防止研修や、精神科救急、危機介入、コミュニケーション、身体介入に関する訓練を受け、知識だけでなく実技も確認します。

特に、次の内容を職場で確認しておくと、緊急時に迷いにくくなります。

  • 暴力のリスクを共有する方法
  • 応援を呼ぶ基準と連絡手順
  • 退避場所と安全な動線
  • 患者さんへの声かけと境界線の示し方
  • 行動制限を行う場合の院内手順
  • 負傷時、警察・救急への連絡が必要な場合の手順
  • 発生後の記録、報告、職員支援の方法

研修で学んだ方法が、すべての患者さんや状況にそのまま当てはまるとは限りません。患者さんの病状、人数、場所、凶器の有無などによって危険度は変わるため、現場では施設の手順と責任者の指示を優先します。

精神科看護師が暴力対策で抱え込まないために

暴力を受けた看護師が「自分の声かけが悪かったのではないか」と一人で悩む必要はありません。患者さんへの配慮は必要ですが、暴力や脅迫を職員が当然に受け入れる必要はなく、安全に働ける環境を整えることも医療機関の役割です。

不安を感じた場面、対応が難しかった場面、繰り返し起きている言動は、被害が大きくなる前に上司やチームへ伝えます。相談するときは、「怖かった」といった感情だけでなく、いつ、どこで、何が起きたか、今後どの場面が危険かを整理すると、具体的な対策を決めやすくなります。

最初に行うべき対策は、危険サインと応援を呼ぶ基準を病棟内で共有することです。暴力が起きた場合は、患者さんと職員の安全を確保し、単独で無理に対応せず、院内の緊急手順に従って報告・記録・再発防止まで行います。