療養病棟で看護師が急変に対応するときは、普段の状態との差を見つけ、応援要請と同時に生命に直結する項目から評価・対応することが基本です。まず安全を確保し、意識・呼吸・循環を確認します。その後、院内の急変対応手順に従って医師や応援スタッフへ報告し、必要な処置を進めます。
療養病棟では、認知機能の低下、意思表示の難しさ、慢性疾患による基準値の違いなどがあります。数値だけで判断せず、本人の普段の状態と比べて変化を捉えることが重要です。
急変時に最初に確認する観察ポイント
最初は「いつもと違う」という変化を見逃さず、生命維持に関係する順番で確認します。異常が明らかな場合は、観察を続けるだけにせず、同時に応援を呼びます。
1.意識と反応
- 呼びかけに反応するか
- 普段と比べて眠気が強くないか、反応が遅くないか
- 会話の内容が急に変わっていないか
- 片側の手足の動かしにくさ、ろれつの回りにくさ、けいれんがないか
- 瞳孔の左右差や、急な頭痛・嘔吐がないか
意識レベルは、普段から意思疎通が難しい患者では、家族や記録にある通常の反応と比較します。「刺激に反応した」という事実だけでなく、呼びかけ、痛み刺激への反応、反応の左右差などを具体的に記録します。
2.呼吸
- 呼吸があるか、呼吸数が普段と比べて増減していないか
- 息苦しさ、努力呼吸、肩で息をする様子がないか
- 喘鳴、湿性ラ音、いびき様の呼吸など異常な呼吸音がないか
- 痰の量や性状、喀出できているか
- 顔色、口唇や爪の色、冷汗がないか
- パルスオキシメータの値と、測定部位・波形が適切か
酸素飽和度の数値だけでなく、呼吸状態や本人の普段の値を合わせて評価します。末梢循環不良、体動、マニキュアなどで測定値が不正確になる場合があるため、波形や脈拍との整合性も確認します。
3.循環
- 脈拍の速さ、リズム、触れやすさ
- 血圧の変化と、測定条件が適切か
- 皮膚の冷感、蒼白、冷汗、チアノーゼがないか
- 胸痛、動悸、失神、ふらつきがないか
- 出血、吐血、下血、黒色便などがないか
- 尿量が急に減っていないか
血圧が保たれていても、意識変化、冷汗、頻脈、皮膚の冷感などがあれば循環不全の可能性があります。単一の数値だけで「問題ない」と判断せず、複数の所見を組み合わせます。
4.体温・血糖・痛み
- 発熱または低体温がないか
- 悪寒、ふるえ、発汗、顔色不良がないか
- 血糖値の異常がないか
- 急な痛みや、痛みの部位・強さの変化がないか
- 腹部の張り、硬さ、圧痛、嘔吐、排便・排ガスの状況に変化がないか
糖尿病治療中の患者、食事摂取が少ない患者、感染症が疑われる患者では、血糖や体温の変化が急変の手がかりになることがあります。血糖測定や追加の観察は、院内手順と医師の指示に従って行います。
療養病棟で見逃しやすい「普段との違い」
療養病棟では、急変が典型的な症状として現れないことがあります。次のような小さな変化が、感染、誤嚥、脱水、低血糖、心不全などの早期サインになる場合があります。
- 食事や水分を急に取れなくなった
- 会話や表情が少なくなった
- いつもより眠っている、または落ち着きがない
- 離床できていた人が急に動けなくなった
- むせ、湿った声、痰の増加がある
- 呼吸数が増えた、夜間だけ息苦しそうにしている
- 尿量が減った、尿の色やにおいが変わった
- 転倒・転落後に頭痛、嘔吐、眠気、歩行の変化がある
これらは急変の原因を確定する所見ではありません。変化があった時刻、程度、前後の状況を記録し、必要な観察と報告につなげます。
急変時の基本的な対応手順
急変時は、1人で観察と処置を抱え込まないことが大切です。次の順番を基本にしつつ、実際には施設の急変対応マニュアル、医師の指示、救急カートの運用に従います。
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周囲の安全を確保する。
転倒、酸素チューブや点滴の抜去、ベッド周囲の障害物などを確認します。患者を無理に移動させず、必要に応じてベッドを適切な高さに調整します。
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患者の反応と呼吸を確認する。
声かけを行い、反応を確認します。呼吸の有無、呼吸の異常、気道閉塞を疑う所見を見ます。反応がない、または正常な呼吸がない場合は、院内の蘇生手順に従って直ちに応援を要請します。
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応援を呼び、役割を分担する。
「いつ、どの患者に、どのような変化があったか」を短く伝えます。応援要請、医師への連絡、バイタル測定、酸素・吸引・救急カートの準備、家族への連絡などを分担します。
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気道・呼吸・循環を優先して評価する。
気道が保たれているか、呼吸状態はどうか、脈拍や血圧に異常がないかを確認します。必要な体位調整、酸素投与、吸引などは、患者の状態と医師の指示、院内手順に基づいて実施します。
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バイタルサインと追加情報を集める。
意識、呼吸数、酸素飽和度、脈拍、血圧、体温、血糖などを測定します。測定値だけでなく、測定時刻、普段の値、症状が始まった時刻も整理します。
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医師へ簡潔に報告し、指示を受ける。
現在の状態、発症時刻、経過、実施した対応、反応を伝えます。状態が変化した場合は、指示を待つだけでなく、変化した内容を再度報告します。
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処置後の反応を再評価する。
酸素投与や吸引、体位調整などを行った後、意識、呼吸、循環、症状がどう変化したかを確認します。改善しても再悪化する可能性があるため、観察間隔は指示と院内基準に従います。
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経過と対応を記録する。
発見時刻、症状、バイタルサイン、報告時刻、指示内容、実施した処置、患者の反応、家族への連絡状況を時系列で記録します。記録は推測ではなく、実際に確認した事実を中心にします。
医師や応援スタッフへの報告で伝える内容
報告は、結論から伝えると緊急度が伝わりやすくなります。SBAR(状況・背景・評価・提案)など、施設で決められた報告方法があれば使用します。
- 状況:「○号室の患者さんが、14時10分から呼びかけへの反応低下と呼吸数の増加を認めています」
- 背景:主な疾患、普段の意識・呼吸状態、酸素使用の有無、直前の食事・内服・転倒など
- 評価:現在の意識、呼吸数、酸素飽和度、脈拍、血圧、体温、血糖、主な症状
- 提案・依頼:「診察をお願いします」「指示をいただきたいです」「救急搬送の判断をお願いします」
「何となく元気がない」だけで終わらせず、「普段は会話できるが、現在は呼びかけに開眼するだけ」「食事後から湿った咳が続き、酸素飽和度が普段より低い」など、比較できる形で伝えます。
急変時に確認しておきたい療養病棟特有の情報
緊急処置と並行して、治療方針に関わる情報を確認します。ただし、蘇生や気道・呼吸への対応を遅らせてまで書類を探すことは避けます。
- 蘇生処置や救急搬送についての本人・家族の意向
- DNAR(心停止時に心肺蘇生を行わない方針)の指示や、施設内での正式な確認状況
- 急変時の医師の指示、看取りの方針、連絡先
- 基礎疾患、アレルギー、内服薬、抗凝固薬の使用
- 直近の食事・水分摂取、排泄、転倒、誤嚥、処置や薬剤投与
- 普段の意識、呼吸状態、酸素使用量、血圧など
DNARの指示は、心停止時の心肺蘇生に関する方針です。心停止していない患者への酸素投与、苦痛の緩和、原因を調べるための対応まで一律に中止する意味ではないため、施設の方針と医師の指示を確認します。
救急搬送や緊急対応を急ぐ状態
次のような場合は、院内の緊急要請や救急搬送の基準に従い、速やかに医師・応援スタッフへ連絡します。基準値や搬送判断は患者の状態と施設の手順によって異なるため、数値だけで判断しません。
- 呼びかけに反応しない、または急速に意識が低下している
- 正常な呼吸がない、呼吸が極端に苦しそうである
- 酸素投与中でも呼吸状態が悪化している
- 胸痛、冷汗、失神、急な動悸がある
- 片麻痺、ろれつ障害、突然の激しい頭痛などがある
- けいれんが続く、またはけいれん後に意識が戻らない
- 大量出血、吐血、下血がある
- 転倒後に意識変化、繰り返す嘔吐、強い頭痛がある
- 重いアレルギー反応や急速な顔・口の腫れがある
「しばらく様子を見る」場合でも、誰が、何を、どの間隔で観察するかを明確にします。状態が悪化したときの再報告基準も、医師やリーダーと共有します。
急変後の記録と振り返りで確認すること
記録では、発見者の印象だけでなく、時刻と客観的な変化を残します。たとえば「14時10分、昼食後に呼びかけへの反応低下を認めた。呼吸数28回/分、酸素飽和度〇%、脈拍〇回/分」などの形で記載します。
急変が落ち着いた後は、申し送りで観察継続の項目を明確にします。再発予防のため、誤嚥、転倒、薬剤、感染、脱水、排泄などの可能性をチームで振り返り、必要に応じてケア方法や観察計画を見直します。
療養病棟の急変対応は、普段との違いを早く捉え、意識・呼吸・循環を優先して評価し、応援要請と報告を遅らせないことが基本です。実際の酸素投与、吸引、薬剤使用、蘇生、救急搬送の判断は、患者の指示書と施設のマニュアルに従って実施してください。







