精神科看護師の夜勤における急変対応とは、患者の異常を「精神症状の悪化」と決めつけず、身体状態を確認しながら、応援要請・医師への報告・救急搬送の判断につなげることです。基本は一般病棟と同じく、安全確保、意識と呼吸の確認、応援要請、全身状態の観察、必要な処置と報告を順に行います。
夜間は職員数が限られるため、1人で抱え込まず、施設の急変時マニュアルや院内の連絡基準に従って、早めに対応を開始することが重要です。
精神科の夜勤で急変対応が必要になる主な状態
急変とは、患者の生命や身体機能に関わる状態が急に変化することです。精神科では、次のような症状が見られた場合、精神症状だけでなく身体疾患や薬剤の影響も考えます。
- 呼びかけに反応しない、反応が急に悪くなった
- 呼吸が苦しそう、呼吸が止まっている、唇が紫色になっている
- 胸痛、強い動悸、冷汗、顔色不良がある
- けいれん、突然の麻痺、ろれつが回らない、激しい頭痛がある
- 転倒や頭部打撲の後に、意識や行動が変化した
- 高熱、筋肉の強いこわばり、発汗、意識変化がある
- 嘔吐、誤嚥、窒息、激しい腹痛や出血がある
- 低血糖が疑われる発汗、ふらつき、意識変化がある
- 過量服薬、自傷、異物の飲み込みが疑われる
特に、普段から幻覚や妄想がある患者でも、急に会話が成立しなくなった、動きが極端に遅くなった、眠り続けるようになったという変化は、身体状態の悪化が隠れている可能性があります。
夜勤中の急変対応は「精神症状」と決めつけないことが出発点
急に興奮したり、会話がまとまらなくなったりした場合でも、統合失調症などの精神疾患だけが原因とは限りません。発熱、感染症、低血糖、脱水、薬剤の副作用、離脱症状、頭部外傷などでも、意識や行動が変化します。
したがって、まず「いつもと違う変化か」「身体症状を伴っているか」「転倒・服薬・食事・排泄に変化がないか」を確認します。精神症状への対応を始める前に、生命に関わる異常を見落とさないことが大切です。
精神科看護師が行う急変対応の手順
1. 自分と周囲の安全を確保する
最初に、患者と対応する職員の安全を確保します。興奮、暴力、自傷、刃物などの危険がある場合は、無理に1人で近づかず、応援を呼びます。
周囲の患者を安全な場所へ移動させ、危険物を遠ざけます。ただし、患者を押さえつける、隔離する、身体的な制限を行う場合は、施設の規定と法令、医師の指示などに従い、必要性と安全性を慎重に判断します。
2. 反応と呼吸を確認し、必要なら直ちに応援を呼ぶ
患者に声をかけ、反応を確認します。反応がない、呼吸が正常でない、呼吸状態が明らかに悪い場合は、院内の緊急コールや応援要請を行い、施設の手順に従って救命処置を開始します。
医療機関内では、救急カート、AED、酸素などの配置場所を夜勤前に確認しておくと、急変時に動きやすくなります。心肺停止が疑われる場合は、院内の救急対応基準に従い、必要に応じて院内救急チームや119番への連絡を行います。
3. 気道・呼吸・循環を確認する
意識がある場合も含め、次の項目を短時間で確認します。
- 気道:嘔吐物や分泌物で気道がふさがっていないか
- 呼吸:呼吸数、呼吸の深さ、息苦しさ、喘鳴、チアノーゼがないか
- 循環:脈拍、血圧、皮膚の冷感や発汗、顔色の変化がないか
- 意識:呼びかけへの反応、見当識、普段との違いがないか
- 体温:発熱や低体温がないか
測定できるバイタルサインを確認し、値だけでなく、普段の状態からどのように変化したかも記録します。測定が難しい場合や、数値が得られなくても状態が明らかに悪い場合は、測定を続けることより応援要請と報告を優先します。
4. 変化の経過と原因になりそうな情報を集める
急変対応では、「いつから」「何が起きたか」「どの程度変化したか」を整理します。確認する情報の例は次のとおりです。
- 最後に普段どおりだった時刻
- 症状が始まった時刻と、その後の変化
- 直前の服薬内容、服薬した時刻、飲み間違いの可能性
- 転倒、頭部打撲、外傷、自傷の有無
- 食事や水分摂取、嘔吐、下痢、排尿の状況
- 発熱、咳、感染症状、疼痛の有無
- アルコールや薬物の使用、離脱の可能性
- 自殺念慮、過量服薬、異物摂取の可能性
本人から情報を得られない場合は、同室患者の情報、服薬記録、看護記録、残薬、周囲の状況なども確認します。ただし、確認のために患者を1人にしたり、危険な場所を放置したりしないようにします。
5. 医師や責任者へ、緊急度を明確にして報告する
報告では、単に「様子がおかしい」と伝えるのではなく、現在の状態と経過を簡潔に伝えます。例えば、次の順番で整理すると報告しやすくなります。
- 患者の氏名、年齢、病棟、既往歴や重要な治療情報
- いつから、どのような変化が起きたか
- 意識、呼吸、脈拍、血圧、体温などの現在の状態
- 転倒、服薬、発熱、嘔吐、自傷などの関連情報
- すでに行った対応と、その後の変化
- 医師に確認したい内容、必要と考える対応
意識障害、呼吸不全、胸痛、けいれん、重い外傷、急速な悪化などがある場合は、報告を待って経過観察するのではなく、院内基準に従って緊急対応を進めます。
6. 指示された処置を行い、反応を再評価する
医師の指示や施設の手順に基づき、酸素投与、血糖測定、静脈路の確保、薬剤投与などを行います。実施できる処置の範囲は、資格、勤務先の手順、医師の指示によって異なるため、独断で行わないことが必要です。
処置後は、意識、呼吸、バイタルサイン、症状が改善したかを再び確認します。改善しない、悪化する、新しい症状が出た場合は、再度医師や責任者へ報告し、救急搬送を含む対応を検討します。
精神科で特に見落としたくない急変の例
薬剤による意識や身体状態の変化
向精神薬などの服薬後に、強い眠気、ふらつき、呼吸の異常、意識低下が見られた場合は、薬剤の影響や過量服薬の可能性を考えます。服薬内容や時刻、残薬を確認し、自己判断で追加の薬を飲ませたり、吐かせたりせず、医師や救急対応者へ報告します。
高熱・筋肉のこわばり・意識変化
高熱、強い筋肉のこわばり、発汗、意識の変化などが急に現れた場合は、向精神薬に関連する重い副作用を含め、緊急評価が必要になることがあります。精神症状の悪化と判断して様子を見るのではなく、バイタルサインを確認し、速やかに医師へ報告します。
けいれんや意識障害
けいれん中は、周囲の硬い物や危険物を遠ざけ、無理に押さえつけたり、口の中に物を入れたりしません。けいれんが始まった時刻、持続時間、左右差、終了後の意識状態を確認し、呼吸状態を観察します。
初めてのけいれん、長く続くけいれん、繰り返すけいれん、けいれん後に意識が戻らない場合は、緊急性が高いため、施設の基準に従って直ちに応援要請と医師への報告を行います。
自傷・過量服薬・異物摂取
自傷や過量服薬が疑われる場合は、傷の程度、出血、意識、呼吸を確認し、危険物や薬剤の残りを確保します。薬の種類や量が分からない場合でも、「分からないから様子を見る」とせず、分かっている範囲の情報を医師や救急対応者へ伝えます。
患者の安全確保と身体評価を優先し、希死念慮や自傷に至った経緯の詳しい聴取は、生命に関わる状態への対応後に行います。
夜勤の急変対応で避けたい判断
- 「いつもの精神症状」と考え、バイタルサインを確認しない
- 患者の訴えを妄想や不安だけと判断する
- 応援を呼ばず、1人で対応を続ける
- 医師への報告を朝まで待つ
- 測定値が正常に見えることだけで、急変を否定する
- 処置や薬剤投与を施設の手順なしに独断で行う
- 記録を後回しにして、時刻や観察内容が不明になる
精神科病棟では、患者の普段の言動を知っていることが観察に役立ちます。一方で、普段と似た訴えの中に身体疾患が隠れている場合もあるため、症状の内容だけでなく、発症の速さ、意識、呼吸、バイタルサインの変化を合わせて判断します。
急変後に記録する内容
記録には、後から経過を再現できるよう、事実と判断を分けて残します。主に次の内容を記録します。
- 異常を発見した時刻と発見時の状況
- 患者の訴え、意識、呼吸、バイタルサイン
- 外傷、服薬、食事、排泄などの関連情報
- 応援要請や医師への報告時刻と報告内容
- 実施した処置、投与した薬剤、患者の反応
- 救急搬送や入院継続など、その後の方針
- 家族への連絡や申し送りの内容
「不穏」「様子がおかしい」だけで終わらせず、どのような言動や身体所見があり、いつからどう変化したのかを具体的に書きます。
急変に備えて夜勤前に確認すること
急変時に迷わないため、夜勤開始時に次の項目を確認しておくと役立ちます。
- 夜勤帯の責任者、医師、応援職員への連絡方法
- 救急カート、AED、酸素、吸引器、血糖測定器の場所と使用手順
- 院内救急コールや119番要請の基準
- 患者ごとのアレルギー、重要な既往歴、ハイリスク薬
- 転倒、自傷、離院、過量服薬のリスクが高い患者
- 夜間の観察方法と、異常時の申し送り事項
施設によって連絡先、救急搬送の基準、看護師が実施できる処置は異なります。実際の勤務では、この記事の一般的な流れだけで判断せず、勤務先のマニュアル、医師の指示、院内の救急対応体制を優先してください。
精神科看護師の夜勤における急変対応の要点
夜勤の急変対応では、精神症状と決めつけず、まず安全と生命に関わる状態を確認することが基本です。反応・呼吸・循環を確認し、異常があれば早期に応援を呼び、経過とバイタルサインを整理して医師へ報告します。
高熱、意識障害、呼吸異常、けいれん、胸痛、重い外傷、過量服薬、自傷などは、緊急度が高い可能性があります。夜勤前に連絡先と救急物品の場所を確認し、異常を発見したら1人で抱え込まず、施設の基準に沿って直ちに対応してください。







